成人鼠径ヘルニアの手術について
成人鼠径ヘルニアの手術は原則としてメッシュを用います。
メッシュを用いる手術は二通りあり、
一つ目は従来からの方法で、筋膜の穴を上からメッシュで押さえつける方法です。
二つ目は当院の手術方法でもある筋膜の穴の下にメッシュを広げる方法です。
一つ目の方法だと、お腹に力を入れると腹圧は下から上にかかりますので、上から押さえつける方法だと隙間ができてそこからまた腸が飛び出してくる可能性があります。
それに比べ筋膜の下にメッシュを広げると、腹圧がかかっても筋膜とメッシュの間に隙間ができないので、こちらの方が再発が少ない方法といえます。
筋膜の下にメッシュを入れる方法は二通りあって、
一つは皮膚を切開して上からメッシュを入れるクーゲル法という方法です。
もう一つは腹腔鏡を使ってお腹の中からメッシュを入れる腹腔鏡手術です。
当院ではこの二つの方法で成人の鼠径ヘルニアの手術を行っています。
患者さんの年齢や病態に応じて適切な手術を選択しております。
鼠径ヘルニアとは
足の付け根から恥骨にかけて左右の下腹部を鼠径部といいます。
人間は2本足で立っていますので、下腹部に腹圧がかかり、腹壁の筋膜がさけて穴があき、内臓の一部が皮下に飛び出す病気が鼠径ヘルニア、いわゆる脱腸です。
鼠径部が膨らんだり、つっぱったような痛みを伴います。
皮下に飛び出した腸が戻らなくなり、固く腫れ上がって血行障害を起こす状態を絞扼性ヘルニアといい、緊急手術になることもあります。
しかし絞扼性ヘルニアの頻度は一般的には1万分の1程度とされごくまれです。
筋膜は筋肉とは違いますので、腹筋を鍛えても鼠径ヘルニアは治りません。
洋服のほころびと同じで穴も出方も少しずつ大きくなりますので、最終的には手術が必要です。
鼠径ヘルニアは超音波検査により、穴の場所と大きさ、飛び出している内臓の状態を簡単に診断することができます。
鼠径ヘルニアの年齢のピークは2つあり、一つは乳幼児、もうひとつは中年以降です。
鼠径ヘルニアの症状が疑われたら、まずは専門医を受診することをお勧めします。
下肢静脈瘤の治療法
下肢静脈瘤の治療法はまずは弾性ストッキングによる圧迫療法で、足を圧迫し静脈の逆流を防ぐ保存的治療です。
硬化療法は静脈に硬化剤を注入して静脈を固める方法で、細い静脈瘤や網目状、クモの巣静脈瘤に適しています。
手術療法では、一昔前は逆流する血管を足から引き抜くストリッピング手術でしたが、血管に細いレーザーファイバーを挿入してレーザーの熱で血管を閉塞させる血管内焼灼術が開発され、日本でも保険適応となって以来、下肢静脈瘤手術の主流となりました。
さらに最近、グルー接着剤を用いて血管を閉塞させる血管内塞栓術が保険適応となりました。 グルー手術はレーザー手術と違い、熱が加わらないので神経損傷がより少ない最も新しい手術方法です。
以上の治療法にはそれぞれの特徴がありますので、 下肢静脈瘤の症状が疑われたら、まずは専門医を受診することをお勧めします。
下肢静脈瘤とは
静脈の血液は心臓に戻っていきますが、人間は2本足で立っていますので、足の静脈の血液は重力に逆らって下から上に流れることになります。
血液が逆流しないように静脈には逆流防止弁があります。この静脈の弁がゆるんで足の静脈の血液が逆流する病気が下肢静脈瘤です。
夕方になると足がだるくなる、足がむくむ、夜中に足がつるなどの症状があります。
足の血管が膨れてぼこぼこ浮き出るようになり、そのまま放っておくと、かゆみや湿疹,茶色い色素が沈着し、足の脂肪が硬く腫れ、最終的には潰瘍ができて、汁がでることもあります。
下肢静脈瘤の3大原因は8時間以上の立ち仕事、妊娠出産、遺伝的体質です。
下肢静脈瘤は超音波検査により、逆流している静脈の部位、逆流の程度を簡単に診断することができます。
下肢静脈瘤の症状が疑われたら、まずは専門医を受診することをお勧めします。
多汗症に対する手術療法
交感神経の亢進状態により、手、わき、足の裏から過剰な汗がでる疾患が多汗症です。
手術療法は、わきから細い胸腔鏡を用いて交感神経を遮断する方法で、交感神経の亢進状態が緩和されると、手の汗はサラサラになります。この多汗症手術の最大のデメリットが代償性発汗です。私は長年の経験から、代償性発汗をできるだけ少なくするために低位の交感神経遮断術を行っています。しかし代償性発汗は程度の差こそあれ、100%の患者様に出現しますので、後悔しないためには一度に両側ではなく、片側ずつ慎重に手術を行う方法があります。
片側手術では代償性発汗の量は両側手術の半分になりますから、いきなりブラウスやズボンがびっしょり濡れるような過剰な代償性発汗ではありません。
まずは利き手側の手術を行い、半分の量の代償性発汗が自分にとってどの程度なのかを確認し、納得してから、また反対側の手術を受けるかどうかをゆっくりと判断すれば、過剰な代償性発汗で後悔するリスクを避けることができます。しかも利き手がサラサラになれば字を書くときに紙がぬれない、人と堂々と握手ができるようになる、そういう状況でドキドキしなくなると。手の汗は精神性の発汗ですので、反対側の手の汗も減って気にならなくなった、と結果として片側だけの手術で十分に満足されて反対側の手術はしないまま経過をみている患者様も大勢いらっしゃいます。
多汗症に対する手術以外の治療法は?
まずは塩化アルミニウムの塗り薬が推奨されます。
わき汗にはそのまま塗るだけで有効ですが、手の平や足裏の場合は薬液の上から被覆材で密着させる方法が必要です。
わき汗には抗コリン剤の塗り薬も保険適応されました。
手や足に電流を流すイオントフォレーシスも保険適用の治療法です。
ボトックス注射はわき汗には保険適応ですが、手汗などには保険が適応されず、効果も一時的ですので、費用対効果は低いと思われます。
多汗症に適応がある内服薬はプロバンザインで空腹時に服用すると効果が期待できます。その他、漢方薬は体質に合わせて使用します。
以上の治療法でも十分な効果がなく、患者様の手の汗の悩みが強い場合にのみ、胸腔鏡による交感神経遮断術が選択されます。
多汗症の症状にはどんなものがありますか?
多汗症の症状は物心がついたころから気づくことが多く、ピアノを弾いたら鍵盤がぬれた、テレビゲームのコントローラーがぬれた、遠足やフォークダンスなどで手をつなぐのを友達から嫌がられたなど、本人にしかわからない精神的な苦痛を伴うこともあります。
中学生以上になると試験の時にテストの紙がぬれる、握手が困る、コンビニのレジなどでお金を払うときやおつりをもらうときに店員さんと直に手がふれるのが困るなど、日常生活での悩みも深刻です。
汗にはどのような種類がありますか?
汗には3種類あります。1つは温熱性発汗といって暑い時や運動の際に体全体からでる汗で、体を冷やすためにでる大切な汗です。
2つ目は味覚性発汗といって、熱いものや辛いものを食べたときに顔から出る汗です。
3つ目の汗は精神性発汗といって、緊張した時などに出る汗で交感神経が関与しています。精神性発汗は人間の毛の生えない部分、特に手のひらや足の裏から汗がでるという特徴があります。交感神経が過剰に反応して、手のひらや足の裏から日常生活に困るほどの過剰な汗がでる疾患が多汗症です。睡眠中は交感神経が休んでいますので、多汗症でも朝起きた瞬間は手のひらや足の裏はサラサラしています。
手汗の原因は冷え性ですか?
今回は「手汗の原因は冷え性と聞いたが本当か?」というご質問についてお答えしたいと思います。
そのためにまず、冷え性についてご紹介します。
人は自動で体温を調節しています
人間は環境の温度が変わっても、血液の流れる量を変化させたり、汗をかいたりすることで、体温を一定に保つ機能が備わっています。
暑かったり寒かったりする場合は、脳の自律神経の中枢である「視床下部」にそれが伝えられ、体温を調節するために各所に指示が出されます。
その指示のもと、血管を広げたり縮めたり、汗を出したり、体を震えさせたりと様々な反応をおこします。
冷え性の原因
冷え性は、手足の先が慢性的に冷えている感覚があり、かんたんには温まらないような状態を指しています。これは先に述べた体温調節機能がうまく働いていないことが考えられ、以下のような理由があげられます。
●自律神経の乱れ
身体的、精神的な負荷が原因となり、体温調節の指示を出す自律神経が機能していない状態です。
●血液循環の悪化
血液の循環が悪くなっている状態です。血行が悪いと寒く感じます。
●更年期障害
過剰なストレスなどで女性ホルモンの分泌が乱れている状態です。
手汗との関係
手汗は、明確な原因はわかっておりませんが、自律神経の異常や他の病気が原因となって発症する可能性があることは分かっています。
冷え性の原因ともなっている自律神経の乱れが手汗を引き起こしていることが考えられます。
また、手汗は更年期障害と関係があるという見解もインターネット等で見かけますが、これも自律神経の乱れが関係していると考えられます。
手汗の状態やどのくらい生活に支障が出ているかによって、治療方法を選択していくことになりますので、お悩みの方はまずはお気軽にご相談ください。
子供の鼠経ヘルニアはどのような症状が起きますか?
鼠経ヘルニアは鼠径部の筋膜が破れ、腸などの内臓が飛び出す病気のことで、別名では脱腸とも呼ばれています。成人の場合は、加齢による筋膜のゆるみが主な原因として多いですが、子供の場合は、胎生期から腹壁筋膜の抵抗の弱い部分があることで発生します。
現在ご自分のお子さんに気になることがあるため、このようなご質問をされていると思いますが、慌てないで頂きたいのは、子供の鼠経ヘルニアは20人に1人がなるといわれるほど多い病気ということです。
おむつ交換などでよく見てあげてください。足の付け根に膨らみがあるときは、鼠経ヘルニアの可能性があります。
もし気になることがあったら、診察、検査にお越しください。
鼠経ヘルニアと診断された場合は乳児でも手術が可能ですが、当院では日帰り手術のため2歳以上を日帰り手術の適応としています。
成人の場合は体内に医療用のメッシュを入れる手術になりますが、子供の場合はこれから体が成長していくため、メッシュなどの異物を一切使用しない手術を行います。
手術の傷は10~15mm程度でほとんど目立たず、筋膜の縫合には時間の経過とともに溶ける糸を使用します。入院の必要もありません。翌日からシャワー浴、翌々日から入浴が可能です。体内に異物が残ることもありませんし、傷も成長とともにほとんど消失してしまいますので、ご安心ください。
日帰り手術では一緒に保護者が泊まり込む煩わしさもありません。もしお子さんで気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。